赤い封筒 – 第1話

 ユキノはアキラが差し出したカードを覗き込み、その文面を黙読する。インクの色は前回と同じく淡いグレーがかったもの。そこに綴られている数行の詩は、詩と呼べるほど洗練されているのかどうかも判断が難しい、断片的な言葉の連なりに近い。だが読んでいくうち、どこか人の心を不安にさせるような、陰鬱な響きをはらんでいる。

「“雨に濡れた呼吸と 言の葉の破片が 交差する場所で 記憶は青く染まる”……ですか。なんだか、抽象的ですね。」

「でも、“雨”とか、“青く染まる”とか……どこか事件のニュースで聞いたフレーズに似ている気がする。たとえば“青いバラ”とか、何か最近あったよね?」

「そういえば、未解決の殺人事件の被害者の傍に青いバラが残されていたって報道、見ました。あれ、ネットでも話題になってましたよ。」

 ユキノの声には微かな緊張が混ざる。最近話題になっている連続殺人、あるいは未解決の不可解な事件――メディアでも大きく取り上げられた幾つかのケースで、被害者の側に何らかの謎めいたメッセージやアイテムが置かれていたという噂があった。

「まさか、関係ないとは思うけど……妙に引っかかるんだ。毎月届くこの詩、どこか暗示的で。もし仮に、この詩が何かの予兆だとしたら?」

「先生、それってちょっと考えすぎじゃないですか?」

「いや、そうであればいいんだけどね。」

 アキラは疲れたように額を押さえ、ため息をつく。とはいえ、自分自身でも「考えすぎ」という可能性は否定できなかった。創作を生業にしていると、日常の小さな出来事も意味を見出したくなる性分になる。しかし、この封筒だけは無視できない。送り主の狙いが単なる悪趣味なのか、あるいはもっと陰湿なものなのか、判断がつかないままだ。

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