赤い封筒 – 第1話

 シンイチの電話はコール音が続いている。もしかするとすぐには出られないのかもしれない。アキラは一度通話を切り、メッセージを残しておこうと画面を操作する。テキストに書くべき内容を簡潔にまとめようとするが、どのような言葉を使えば、赤い封筒の異様さを伝えられるだろうか。まさかここまで早く“現実”の事件とのつながりを疑うことになるなど、想像すらしていなかったのだ。

 微妙な戸惑いを抱えたまま、アキラは短い文面を打ち込み、「急ぎ相談したいことがある。時間をもらえないか」という趣旨のメッセージをシンイチに送信する。送った直後に息をつき、ユキノと視線を交わした。

「とにかく、あの人から連絡があれば、一度会って詳しく話をしてみる。その上でどう動くか決めるしかないね。」

「はい。私も先生と一緒に調べられることは探ってみます。まずは赤い封筒と、最近の未解決事件の資料とか……いろいろ洗ってみましょう。」

 そう言うユキノの声には、プロとしての張り詰めた空気がある。単にアキラの安全を気遣っているだけでなく、担当編集者としてこの状況を注視すべきだという強い意志が感じられた。アキラはその頼もしさに救われる思いがしつつ、次第に胸が重くなるのを抑えきれない。

 自分の筆の力を信じて作品を書き上げてきたアキラだったが、今回ばかりは何か大きな歯車が狂い始めているような予感が拭えなかった。雨、破れた写真、青いバラ。そして、得体の知れない詩を送ってくる“誰か”。それらが繋ぎ合わさっていく先には、一体どんな真実が隠されているのだろう。アキラはこの不気味な引力が、ひょっとすると自分自身を巻き込むかもしれないという恐怖を初めて明確に感じ始めていた。

プロローグ

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