赤い封筒 – 第1話

「実はこれ、全部とってあるんだ。最初に届いたのはもう半年前。毎月同じようにポストに投函されて、赤い封筒に一枚の詩だけ。」

「半年間も……! それで、今までどうして黙ってたんですか?」

「脅迫めいた言葉はなかったし、特に被害もない。下手に騒ぐと相手を刺激しそうだから、あえて無視してた。でも、今朝あらためて読み返してみたら、なんというか、詩の構成が少しずつ変わってきてる気がしたんだよ。それこそ“進化”しているように。」

 そう言いながら、アキラは封筒を大事そうに抱えて、ユキノを促す。編集部の奥のミーティングルームへと移動し、そこにある小さなテーブルに腰かけると、バッグから何通もの赤い封筒を取り出し始めた。まだきちんと保管されていたそれらを並べてみると、真っ赤な色合いがテーブルを覆い、どこか異様な光景を作り出す。

「これ全部……?」

「そう。見てわかるとおり、封筒自体はほぼ同じ大きさと色。でも差出人の名前も書いてないし、消印も都内の別々の場所ばかり。狙って変えているのか、投函した人が一定じゃないのか……検討もつかない。」

 ユキノは一通ずつ手に取り、中のカードを読んでいく。どれも短い文面だが、共通するのは不安を煽るような“語り口”。それでいて、直接的に「殺す」とか「呪う」といった過激な単語は出てこない。しかし、そこには“雨”“破れた写真”“青いバラ”などのシンボルワードが点在しており、まるで幾つものピースが集まって一枚の絵を描こうとしているようにも見えた。

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