赤い封筒 – 第4話

 その夜、アキラは自室に戻ると、灯りを暗めに落とし、机に向かった。大学時代の資料をもう一度見返すために手元に広げつつ、赤い封筒の詩とミツルの詩集を並べて読む。文章のリズムやキーワードを比べてみると、やはり似た空気が流れている。わずかな句読点の位置、妙に生々しい単語のチョイス、読後に残る沈鬱な印象――明確な証拠にはなりえないが、作家としての勘がひしひしと告げているのだ。

「ミツル、おまえはいま、どこで何をしているんだ……」

 声に出してみても、返事があるはずもない。ただ、いつかの記憶の断片がチラつく。学内の廊下を歩くミツルの顔には、静かな怒りと孤独が刻まれていた。もし彼が事件に深く絡んでいるならば、その根底には何があるのか。復讐なのか、絶望なのか、それとも別の何かか――。

 アキラは書斎の窓に目をやる。外の街灯がぼんやりと庭を照らしている。遠くには夜風に揺れる木々の影。そんな光景を見つめながら、いつになく胸が締めつけられるような感覚を覚える。過去の因縁という言葉が、これほどまでに重くのしかかるとは思っていなかった。彼はそっと目を閉じ、言い知れぬ不安に苛まれながら、何かを決断しなければならないと感じていた。

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