赤い封筒 – エピローグ

プロローグ 第1話 第2話 第3話 第4話 第5話
第6話 第7話 第8話 第9話 第10話 第11話 第12話

 静まり返った夕方の光が、薄暗い倉庫の奥へ差し込む。アキラは埃だらけのダンボール箱を一つずつ引っ張り出しては、古い書類や書籍を仕分けしていた。事件が終わってから数日。警察での事情聴取やマスコミへの対応に追われていたものの、ようやく落ち着きを取り戻した今、自宅を整理しようという気になったのだ。

 倉庫には大学時代から作家デビュー当初に書き溜めた原稿用紙や、使わなくなった資料、古雑誌などが山積みになっている。その中からほこりをかぶった小さな箱を取り出すと、アキラは懐かしさとともにどこか胸の奥がざわつくのを覚えた。記憶では、ここには大学の講義ノートや文芸サークルで使った印刷物、さらにミツルからもらった文集などがまとまっているはずだ。事件で散々翻弄された今だからこそ、改めて目を通しておきたかった。

「……この箱、随分重いな。」

 アキラは呟きながらふたを開け、上部の資料をそっと取り出していく。大学のシラバスや半端に使ったレポート用紙、それに古い原稿などが混在している。そこに何枚かの原稿用紙が目についた。書きかけの文章が断片的に残されているようだが、アキラの文字ではない。見覚えのある独特の筆圧や文体を追ううち、胸がズキリと痛む。これは明らかにミツルの筆跡だ。

 「なんでここに……そういえば、大学時代に彼から預かった原稿があったっけ……」

タイトルとURLをコピーしました