赤い封筒 – 第5話

 一方、シンイチは黙したまま資料のページをめくり、詩の断片を確認している。そこには、過去に赤い封筒に書かれていた文言と酷似するフレーズが走り書きで記録されている。犯行現場から見つかったらしい謎のメモには、芸術的とも猟奇的とも取れる言い回しが散りばめられていたという。

「……やはり単なる復讐劇とは思えないな。詩という形を選んでいるあたり、どこか芸術性や美学に傾倒している節がある。まるで自分自身の創作活動の一環として、殺人を実行しているかのようだ。」

「ミツルは昔から、詩は“生きた証”だって言ってた。だけど、そんな形で人を傷つける芸術なんて……。もしそれが本当に彼自身の意思なら、悲しすぎる。」

 アキラの表情にはやりきれない苦悩が浮かぶ。一方で、今すぐにでも助けを求めたいと思う気持ちがあるにもかかわらず、それを実行できずにいる自分に気づいていた。過去にしてしまった取り返しのつかない行動――もしくは無行動――のせいで、アキラ自身がミツルに対して負い目を感じている。だからこそ、過度に警察に頼ることや他人に助けを求めることに躊躇が生じていた。

「アキラ、危険な状況になればすぐに警察に行けよ。おまえが加害者側だと感じるのは勝手だが、実際に命が狙われる可能性があるんだぞ。」

「わかってる。でも、もし本当にミツルなら、俺は彼を止めたい気持ちもあるんだ。何かもっと別の方法はないのか……。」

「気持ちはわかるが、相手は連続殺人を行っているかもしれない人物だ。甘い考えは捨てるべきだ。」

 シンイチの硬い声にユキノが小さく息を呑む。狭い喫茶店の空気がぴんと張り詰めたように感じられた。アキラはすべてを吐き出したい衝動に駆られながらも、それを押しとどめて身を縮こまらせる。心の底では、もしかすると自分が殺されても仕方ないというほどの罪悪感が芽生えてしまっているのかもしれない。

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