赤い封筒 – 第5話

 喉の渇きを覚えたアキラは、テーブルに置かれた水を一気に飲み干した。胸の奥に重い塊のような罪悪感がじわりと広がっている。もしこれらの事件が本当にミツルの復讐劇だとしたら、自分もまた“加害者側”なのではないだろうか――そう考えると、心が締め付けられる。大学時代のあいまいな記憶、あのときミツルを救えなかった自分の弱さや無関心が、今になって牙をむいているのかもしれない。

「先生……大丈夫ですか?」

 遅れて到着したユキノが、アキラの強張った表情に気づいて声をかける。彼女はちょっと前の打ち合わせで状況を聞いていたらしく、険しい面持ちでシンイチの資料を覗き込んだ。ユキノのまなざしには不安と同時に、出版界で関わってきた仕事人としての冷静さもある。

「ユキノ……実は、俺自身もミツルに何かしたわけじゃないけど、どこかで彼を見捨ててた気がするんだ。あの頃、ミツルは文学サークルでも孤立しがちで、何度か助けようと思ったことがあった。でも、自分の執筆活動で手いっぱいで……結果的に何もできなかった。」

「それは先生の責任じゃないですよ。人間関係なんて、そう単純に割り切れない。それでも罪悪感があるのはわかりますが……。」

「だけど、もし復讐の標的として俺もリストに入ってたら? この赤い封筒が物語ってるのはそういうことだろう。今までの被害者たちと同じように、俺だって次に狙われる可能性がある。」

 アキラは少し震えを帯びた声で言葉を継ぎ足す。ユキノは小さく首を振りながら、アキラの肩にそっと触れた。彼女自身も不安を抱えているのは間違いないが、編集者としてアキラを支えたい気持ちが勝っているのだろう。

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