赤い封筒 – 第5話

 窓の外を見ると、いつの間にか小雨が降り始めていた。雨粒がガラスを伝う様子が、まるで閉ざされた心の内側を象徴しているかのようにも見える。やがてユキノが声を絞り出した。

「先生、とにかく安全を最優先にしましょう。今は証拠不十分で警察が動きにくいとしても、私たちは情報をさらに集めて、何かしら行動を起こせるようにしておくべきです。ミツルさんが本当に犯人なら、見過ごせないですから。」

「……ああ、わかってるよ。俺もこのまま何もせず待ち続けるつもりはない。」

「そうだな。まずは詩に込められたヒントを掴み、事件との繋がりを立証しなきゃいけない。警察を納得させられるだけの根拠があれば、強制的に捜査を拡大できるかもしれない。被害者たちがミツルにどう関わっていたのか、さらに追ってみる価値はある。」

 シンイチが改めて資料を整理し、スマートフォンに何やらメモを打ち込む。その横でアキラは、胸を痛めながらも創作意欲が疼くのを感じていた。自分の罪悪感を乗り越えるためにも、この一連の出来事を小説という形で言語化する必要があると思えてならなかった。過去のミツルとの関係、彼の詩へのこだわり、そして現在の復讐劇を連想させる事件の数々。すべてが一つにつながる予感がある。

 しかし、その予感とは裏腹に、アキラの背筋には冷たい恐れがつきまとっていた。もし次に狙われるのが自分だったとしたら、ミツルは一体どんな詩を用意しているのだろうか。想像すると背筋が凍る。それでも“止まれない”と感じるのは、やはりどこかでミツルに対する贖罪の気持ちが拭いきれないからかもしれない。

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