赤い封筒 – 第6話

「物色された形跡はありますが、特に盗難品は確認できませんか?」

「ええ、いまのところ大きな損害は見当たらないんですが……壁の文字は明らかに嫌がらせの類いですよね。」

「可能性は高いです。しかし立件できるかどうかは、ほかの証拠がないと厳しいですね。最近おかしな郵便物が届いているという話でしたが……念のため、赤い封筒とやらも回収させてもらえますか?」

 アキラは警察からの要求に応じ、これまでに届いた封筒の一部を預ける。ただしすべてを渡すには踏み切れず、特に強く関連が疑われる文面だけを選んだ。警察は一応参考資料として鑑定に回すようだが、その先どこまで本格的に動いてくれるかは未知数である。捜査員が帰ったあと、アキラの心はさらに荒んでいた。部屋に立ち尽くして見回すが、落ち着くどころか、侵入者の影に飲み込まれそうなほどの不安感が膨れ上がる。

 そこへユキノから電話が入った。アキラが状況を簡潔に説明すると、彼女は驚きと心配の声をあらわにする。

「それ、完全に危ないじゃないですか。先生、大丈夫なんですか? すぐに誰かと一緒にいたほうがいいんじゃ……」

「警察も捜査は始めたが、まだ証拠が足りないらしい。無理はしてないから、安心してくれ。」

「無理してますよ。私、一緒に住むって提案してるのは冗談じゃないんです。編集部に相談すればスペースを用意できるかもしれませんし。」

「いや、悪いけど俺は自宅がいい。原稿もここでしか落ち着いて書けないんだ。……それに、ユキノをこれ以上巻き込みたくない。」

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