赤い封筒 – 第6話

 翌朝、シンイチから連絡が入り、アキラは近所のカフェに呼び出された。席に着くなり、シンイチは挨拶もそこそこに口を開く。

「郵便局の近くで張り込みを始めた。赤い封筒を投函しているやつを見つけるためにな。まだ成果はないが、いくつか怪しい人物をリストアップしてある。」

「助かるよ。昨夜も家に侵入された形跡があってな。壁には例のインクで不気味な文言……。完全に嫌がらせとか脅迫の域だよ。」

「そっちも動きがあったか。となると、犯人は一人かどうかもわからないな。投函役と直接の侵入犯が別かもしれないし。」

 シンイチの口調は険しく、苛立ちを帯びている。アキラの安全はもちろん、未解決事件との結びつきを証明できるだけの決定的な証拠が得られないことにもどかしさを感じているのだろう。警察が本腰を入れるには、あと一歩の材料が足りない。それを補うためにも、民間調査員としてのシンイチは必死になっている。

「昨日、警察には来てもらったけど、立件には至らないって言われた。状況証拠だけじゃ不十分らしい。」

「……やれやれ、でもこっちが諦めるわけにはいかない。引き続き張り込みと情報収集を続けるさ。おまえも気をつけろよ。家の鍵を付け替えるなり、防犯カメラを設置するなり、できることはあるだろう。」

「ああ、そうする。ユキノにも同居を提案されたが、断っちまった。巻き込みたくないし、自分の家を放棄するようで嫌なんだ。」

「気持ちはわかるが、油断するなよ。これ以上エスカレートすれば、本当に危ないかもしれない。」

 アキラは神妙にうなずきながら、カフェの窓越しに街の様子を眺める。行き交う人々の流れはいつもと変わらない。だが、その中に紛れて赤い封筒の差出人がいるかもしれないと考えると、すべてが疑わしく思えてくる。誰が敵で、誰が無関係なのか――見分けがつかない状況が、彼の精神をじわじわと蝕んでいた。

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