赤い封筒 – 第8話

「その文集、今もどこかに保管されてるのかな。」

「それがさ、関連する証拠はどれも散逸していて、大学もトラブルが起きた痕跡をあまり残してないらしい。だが、本人が作った文集なら複数部あった可能性は高い。何しろ自費で何十部か刷ったみたいだからな。」

 シンイチの言葉に、アキラの脳裏にふと浮かぶ記憶がある。自分の大学時代の資料や書籍を実家や倉庫に預けっぱなしにしているボックスがあったはずだ。その中に、当時ほとんど読むことなく置いてあったミツルの小冊子が紛れている気がする。

「そういえば、俺、昔使ってた倉庫に色々まとめて保管してるんだ。ミツルからもらった文集も、その中にあるかもしれない。」

「本当か? それにはミツルの秘密やら感情が詰まってる可能性が高いぞ。あの赤い封筒の詩が、その文集とリンクしてるかもしれない。」

「確かに……あれを読めば、ミツルの本心がわかるかもしれない。何かの糸口になるなら、今すぐ探してみるよ。」

 アキラは勢い込んで椅子を立ち上がり、外へ出ようとする。シンイチはそれを見て、肩をすくめながら言葉を続けた。

「気をつけろよ。もしそれがミツルの動機を明らかにするものなら、おまえも益々狙われる可能性がある。」

「わかってる。でも、何もしないままじゃ駄目だ。真実を知るためにも必要なんだ。」

 そのままアキラは事務所を出て、タクシーを捕まえると郊外にある貸し倉庫へ向かった。少しずつ曇天から小雨が落ち始め、窓ガラスに無数の水滴が伝う。倉庫へ着くと、鍵を開けて中に入り、段ボール箱の山を探し回る。古い小説のゲラや大学時代のレポート、昔使った学術書などが詰め込まれている中、見覚えのある冊子を数冊引っ張り出した。

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