赤い封筒 – 第8話

 アキラは無意識に唇を噛み、思い出そうとする。大学時代、ミツルが詩人として認められないことに苛立ち、教授や周囲に反発した場面がいくつもあったような記憶がある。ただ、当時のアキラは自分の作家デビューに向けて忙しくしていて、ミツルとの確執に深く関与していたつもりはなかった。けれど、もしかすると「立場の強い側」に無自覚に加担していたのかもしれないと思うと、暗い気分になる。

「そして、ここを見てほしい。」

 シンイチは次のページを開き、大学の文芸サークルに関する文書を指差す。そこには、ミツルが執筆した“ある文集”の話が触れられていた。サークルメンバーの一部が、その文集を面白半分に晒し者にするような行為をしたのだという。ミツルのプライドをことごとく傷つけた事件として、当時学内でちょっとした騒ぎになったらしい。

「文集……そういえば、ミツルが自費で作った小冊子を配ろうとしてたんだっけ。でも、俺はその内容をちゃんと読んだかどうか……覚えていない。」

「ところが、これがミツルを精神的に追い込んだきっかけになったとも言われている。大学側も隠蔽とまでは言わないが、トラブルを大事にしないように形だけの指導で終わらせたみたいだ。」

「その後、ミツルは失踪し、実質行方不明。……そして“死亡した”という扱いになっていたわけか。」

 アキラは頭を抱え、視線を落とす。自分が大学を卒業するころには、ミツルはほとんど姿を見せなかった。その理由は「彼がやる気をなくしたから」程度にしか認識していなかったが、実際にはその背後で深刻な問題が進行していたのだろう。

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