赤い封筒 – エピローグ

 しばらくして、原稿用紙に視線を戻す。筆を走らせながら、事件の概要やミツルの詩の引用、そして自分の後悔や罪悪感をどう表現するか頭の中で整理する。書き進めるうち、やがて言葉が形を成し始め、物語が生まれ始める。その行為は、まるで自分自身を浄化するかのような感覚もともなっていた。

 外は夕闇に包まれ、部屋の照明だけが淡く光る。アキラはこれまでで最も苦い想いを抱えながらも、自分の書くべきものがあると信じられる限り、筆を止めるわけにはいかないと感じている。

 デスクの上にはミツルの文集やノートが散らばり、書き殴られたフレーズがあちこちに開かれている。その断片は今にも消え入りそうな悲しみを宿しながら、どこか優しい色合いをまとってアキラを見つめ返していた。

「ありがとう、ミツル。せめて俺の小説で、おまえの声を誰かに届けるから……」

 そう呟いたところで、窓を揺らす風が、一枚の紙切れをはらりと翻す。視線を移すと、文集の最後の白紙ページにかすれたインクで何かが書き残されているのを見つけた。ほとんど読めないほど薄い文字だが、目を凝らしてようやく判読できる。

――もう一度生まれ変われるなら、詩人じゃなくて、誰かと笑い合える普通の人間になりたい――

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