アキラはその言葉を読んだ途端に瞼が熱くなる。今さら何もしてやれない。けれど、自分ができる唯一の方法でミツルを救いたい――それは彼の詩を正しい形で世に残し、同じ悲しみを抱える人々へ救いの糸を投げかけることかもしれないと信じたい。そして、自分の重い罪悪感も、それを行動に移す力に変えられるといい。
ペンを握りしめるアキラの横で、机の隅に置かれた赤い封筒が小さく揺れたように見えた。まるでまだ何かを語りたがっているような、不気味な予兆を含んだ風の動き。犯人は逮捕されても、これまでの苦痛や恐怖が一瞬で消えるわけではない。あるいは今後も、事件に触発された何者かが新たな“詩”を送りつけてくる可能性だってあるのかもしれない。
しかしアキラはもう逃げたりしない。ミツルの名を語った狂気と向き合ったからこそ、自分にできることをやるしかないという想いが鮮明になっている。キーボードを打つ指先が、カタカタと心地よい響きを立て始めた。背後の窓越しには夜の帳が降りてきているが、その暗闇の中でアキラの心にだけは小さな灯が灯っている。
そして、ふと脳裏に巡る考え――「赤い封筒は、まだ届くかもしれない」。理不尽な憎しみや歪んだ狂気は、いつでも世界のどこかに潜んでいる。だが、だからこそアキラは書き続けなくてはならないのだ。ミツルの詩と自分の物語、そしてこれから生まれる言葉たちを信じながら。


















