赤い封筒 – エピローグ

 思い出しながら原稿を捲っていくと、あちこちに修正の赤ペン跡が残されている。どうやらミツルが詩の草稿をアキラに見せ、批評を求めていた時期があったらしい。アキラはその記憶をかなり曖昧にしていたが、字面を追ううちに当時の光景が断片的によみがえってくる。ミツルは自分の詩を読んでほしいと熱心に語っていたのに、アキラは多忙を理由にして流し読みしかせず、結局まともな感想を返せなかったような気がする。

「ミツル……結局、おまえは誰にも受け入れられずに逝ってしまったのか……」

 事件の結末で明らかになったのは、ミツルがすでにこの世を去っていたという冷酷な事実。そしてミツルを名乗った別人が狂気の犯行を繰り返していた。アキラはその顛末を知ると同時に、胸に重い悔恨を抱え込んでいる。自分は彼を救えなかった。彼の叫びにも等しい詩に真正面から向き合わなかった――その罪悪感が、原稿用紙をめくる指先を鈍く痛ませる。

 さらに奥を探ると、小さな封筒が目に入った。これは赤ではなく、色あせたクリーム色の簡素な封筒だ。宛名も何も書かれていないが、開いてみると古い文集の一部が折りたたまれて挟まっていた。その最終ページを捲ると、そこにミツルのメモらしき一文が残されている。

――世界は俺を拒む

――それでも俺は書き続ける

――いつか誰かが、この孤独を理解してくれるならば――

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