大空の船 – 第5章 後編

リタがエンジンの圧力計を見つめながら声を上げる。操縦席でハンドルを握るラウルは、舌打ちしながら「わかってる」と返事をする。高所特有の乱気流が横風を生み、アルバトロスの進路をわずかに曲げようとしていた。

「ここで無理に回頭すると、船体に大きな負荷がかかるかもしれない。だが、あの都市とやらをめざすなら、少しでもコースを修正するしかないな」

そう言うと、ラウルは少しずつ操縦輪を回し、舵を微調整していく。船体がきしむような音を立てるが、何とかバランスを保っているらしい。アレンは胸をなでおろしつつ、皆の顔を見渡した。

数時間後。目的の都市らしき建造物が、視界の端まで広がるほど大きくなった。そびえ立つ城壁のように見える構造や、石の壁面に描かれた巨大な文様のようなものが、薄い光の中にかすかに浮かび上がっている。自然の山や岩の形とは違い、幾何学的なラインが明確だ。見る者に不思議な威圧感と美しさを同時に感じさせるその姿は、まさに古代文明の名残を想起させるに十分だった。

「こ、ここまで大きいとは……」

ライナスが思わず呟き、リタが「すごい……どうやって浮いてるんだろう」と息をのむ。近くまで行けば何かわかるだろうという思いがクルー全員に共有されていた。ラウルは慎重に操縦しながら、「一気に接近するのは危険かもしれない。周囲を一度回って、着岸できそうな場所を探そう」と提案する。

「たしかに、どこか安定して停泊できる構造があればいいけど……あんな城壁に穴や桟橋があるとは思えないね」

アレンが航路図にもない未知の巨大遺跡を前に、どう動くべきか悩んでいると、リタが顔を上げ、「気球部分の浮力をコントロールして、ゆっくり高度を下げながら観察するしかないかな」と補足する。実際、高度を維持し続けるには燃料が足りないし、何よりエンジンの負荷が限界に近い。アレンが同意を示すと、ラウルはゆっくりと舵を回して旋回を始めた。

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