大空の船 – 第7章 前編

「おい、あれはなんだ? あの雲の向こうに、何か大きな影が……」

ライナスの声に続いて、アレンたちも視線をそちらへ向ける。雲の隙間に、巨大な輪郭のようなものが一瞬浮かんだのだ。翼のようにも見えるが、輪郭がはっきりしない。どこか動物的な躍動感を感じさせるが、その規模は常識を超えている。

「鳥……なのか? いや、あんなに大きい生物が空を飛ぶなんて……」

リタが息をのんで呟く。ラウルは「幻覚ではなさそうだ。実際に雲が乱れてる」と真剣な声を出す。巨大な何かが雲を割って飛んだとすれば、かなりの風圧や乱気流を起こすはず。実際、アルバトロスの船体もさっきから微妙に揺れている気がする。

「あの影を追ってみようか? 危険かもしれないが、こんな高度で生き物を見かけるなんて滅多にない」

アレンが提案すると、ライナスは困惑気味に眉をひそめる。

「正体不明だからな。下手すると襲われるかもしれない。空賊だけでも十分厄介だってのに、何の備えもなしに巨大生物に近づくのは正直怖いぜ」

しかしリタは興味を抑えきれない様子で、「でも、もしあの生き物が古代の伝承にある“空鯨”や“天空龍”の類だったら、この世界には他にも未知の生物がいるってことよ。私たちがそれを確認できるなら大きな発見だわ」と熱っぽく語る。

「まあ、やるなら慎重に頼むよ。船の防御はまだ万全じゃないからね」

ラウルが操縦輪を軽く回しながらため息交じりに言う。アレンは悩みつつも、「あの大きさなら、こちらが気づく前に攻撃してくるような猛禽類でもなさそうだ。危険な動きを見せたらすぐに離脱すればいい」と決断した。ライナスは「仕方ないな」と苦笑し、望遠鏡を再度覗き込む。

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