大空の船 – 第7章 前編

アレンが指示を出し、ラウルが小さく頷いて操舵輪を回し始める。リタとライナスは甲板を見回しながら、ねじの緩みや外板の損傷がないか確認作業に入る。どうやら先ほどの突風で甲板の一部がきしんでおり、応急処置が必要なようだ。

「いやはや、まったく。こんな大空にあんな生物が棲んでいるなんて……世の中は広いな」

ライナスがため息まじりに言うと、リタは微笑んで「少し怖かったけど、すごく神秘的だったわ。あの振動、解析できれば何か意味があるかもしれない。空賊も古代技術もすごいけど、この世界にはもっと大きな力があるってことね」と想像を巡らせる。

「大きすぎる力だな。あれこそ“天”の意思というやつかもしれん」

ラウルが苦い笑みを浮かべ、アレンはその言葉を受け止めながら空の青を見上げる。

深い青の向こうにまだ見えぬ生物が潜んでいるのかもしれない。紅蓮のガイウスが狙う世界の覇権や、古代都市の秘術だけが脅威ではないとすれば、アレンたちが進む道はますます未知だらけだ。しかし、仲間との絆を糧に、彼らはさらに高みを目指す。先ほどの遭遇を思い返しながら、アルバトロスは新たな航路へゆっくりと舵を切り始める。やがて夕刻の陽がオレンジ色に空を染めるころ、あの巨大生物の影はどこにも見えなかったが、胸の奥には今もその圧倒的な存在感が焼きついていた。

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第7章:前編|後編

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