大空の船 – 第7章 前編

「攻撃じゃない……何か、こちらを試すような。もしかして、コミュニケーションをとろうとしてるんじゃないか?」

アレンがうわごとのようにつぶやく。リタも痛む耳をこすりながら、「この振動パターン、ただの叫び声じゃない気がする」と同調した。魔物の咆哮というよりは、規則的なリズムを持つ音波だ。

このまま対応策を見つけられずにいると、次第にその音波が弱まっていき、巨大生物は再び体を反転させる。まるで興味を失ったかのように、緩やかな円を描きながら遠ざかりはじめたのだ。クルーが立ち尽くしているうちに、その巨体は濃い雲の向こうへ溶け込むように消えていく。甲板に取り残されたのは、重く息を吐くアレンたちと、まだ揺れが収まらないアルバトロスだけだった。

「去っていった……のか?」

ライナスが呆然とつぶやき、リタは未だ鼓膜に残る振動を気にするように首を振った。「うん。何かを確かめるように現れて、そして納得したかのように行っちゃった……」

ラウルは操縦輪を見つめながら、「あの規模の生物が、本気で襲っていたら船ごと食われてたかもしれない。それがしなかったということは、彼(あれ?)にも理性か目的があったのかもな」としみじみ呟く。

アレンは甲板の手すりに寄りかかり、去っていった雲の向こうを見つめた。胸の高鳴りはまだ収まらないが、恐怖ばかりではなく、強い神秘と畏敬の念が湧き上がってくる。

「未知の生物……空には、こんな存在もいたんだな。古代都市の住民たちも、こんな生き物の伝承を口にしてたかもしれない」

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