亡霊の街 – 第7話

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 佐伯はここ数日、常に誰かと自分が同居しているような不快感に悩まされていた。頭の奥底で声が囁くたびに、まるで背骨にヒビが入るような鋭い痛みが走り、意識が引きずられそうになる。鏡に映った自分の顔からは、以前の彼らしさが失われつつあるのが自分でも分かった。まるで亡霊の一部が自身の身体に溶け込んでいるかのようだ。脳裏には「行け」「救え」という切迫した思念が渦を巻き、日常生活にも支障をきたすほどだったが、それでも佐伯は取材をやめようとはしなかった。

 ある朝、佐伯は自分の声が低く掠れ、まるで別人のようになっていることに気づいた。体温は普段どおりなのに、どこか火照りのような感覚があり、ふとした瞬間に言葉遣いや表情が変わる。小野寺や宮島と会話している最中、急に冷ややかな声色になって、「なぜ私を置き去りにした」と言い放ったことがあった。友人たちはぎょっとした表情を隠せず、そのまま二人とも言葉を失ってしまった。だが、数秒後には佐伯自身も何が起きたのか理解できずに戸惑い、額の汗を拭うのが精一杯だった。

「佐伯さん、正直もう危ないぞ。君はいつ死んでもおかしくない――いや、死んだとしてもおかしくないって言うべきかもしれない」

 そう強い調子で主張するのは宮島だった。警察官としてこれまで数々の事件を見てきた彼だが、今回の一件にはただならぬ恐怖を感じているようだった。行方不明者が続出するなかで佐伯まで“消える”可能性が高いこと、そして当局の妨害以上に、この“亡霊の街”そのものが人を呑み込むような力を持っているように見えることが、宮島の不安を加速させている。

「宮島の言うとおりだよ、佐伯さん。これ以上踏み込んだら、自分を保てなくなるかもしれない。俺や宮島さんだけじゃなく、編集長も心配してるんだ。無理はやめてくれ」