エル・リーフ村の畑を巡回していた大河一樹は、村長のドルトから「とりあえず村の人々を紹介しておこう」と勧められ、彼の自宅へ戻っていた。そこで待っていたのは、ドルトが不在の間、村長代理を務めている青年・エリアスだった。角張った肩当ての付いた簡素な服装をしているが、背筋はぴんと伸び、村を守るという強い意志を感じさせる。
「はじめまして。一樹さん、でしたね。私はエリアスと申します。ドルト様の補佐をしていて、村長代理も務めています。」
エリアスはまっすぐな眼差しを向けてくる。年の頃は二十代半ばか、しかしその眼には、若者に似つかわしくない深い苦悩の影があった。彼は丁寧に一樹に手を差し出す。思わず、一樹もかしこまった気分になり、しっかりと握手を交わした。
「こちらこそ、よろしくお願いします。俺は大河一樹といいます。農業の研究をしていた……といっても、もともとは別の世界の話なんですが。」
「ドルト様から聞きました。あなたが村の土壌を見てくれたと。どうでしょう、可能性はありそうですか?」
その問いに、一樹は少し考え込む。土そのものが痩せていることは事実だが、自分の知る技術を応用すれば多少は改善できるかもしれない。問題は、この世界における“魔力”という未知の要素だ。それによる枯渇現象をどう扱えばいいのか、まだ手探りの状態だ。
「正直、簡単じゃないです。ですが、何かしらの形で作物を育てる方法はあると思います。幸い、村人のみなさんの協力があれば、試せることはいくつかありそうです。」