「えっと……堆肥って、ただの腐った草やゴミとは違うんですか？」シルヴィアが遠慮がちに問いかける。彼女は魔法で土壌浄化を試みていたとはいえ、農業そのものには疎いらしい。
「ただ放っておくだけだと、腐敗が進みすぎてしまう可能性もあるんです。微生物が効率的に分解できるように、空気の入り方や水分量を調整するんですよ。あと、適度な温度と微生物が好む環境を作ることが大事なんです。」
「なるほど……魔法で土にエネルギーを注ぐだけじゃなくて、そういう土の基礎づくりが必要なんですね。」
彼女の瞳には素直な感心の色が浮かぶ。一樹は頷きながら、「そこに魔力の循環がプラスされれば、さらに土壌の活性化が期待できる」と考えていた。魔法のエネルギーが土中の微生物や植物の代謝を促すのではないか、という仮説だ。
「試しに、僕が魔力を注いだ土壌がどう変化するか、少し実験してみませんか？」シルヴィアが提案する。
「やってみよう。ただし、必ず同じ条件の区画も作って、比較ができるようにしよう。たとえば、隣接した場所は魔力を注がないで、堆肥だけでどのくらい変化があるか。そうすれば、魔力が効いているかどうか明確にわかるから。」
「なるほど、実験区と対照区というわけだね。面白いな！」
エリアスが感心して拍手をする。彼はこの村のまとめ役を担っているが、実験や比較検証など科学的な手法にはまるで馴染みがない。それでも新しいアプローチへの期待感が高いのか、率先して人手を集めてきた。
