異世界農業革命 – 第3話

 鍛冶屋を訪れると、煤まみれのエプロンをかけた青年が錆びた鉄を叩いていた。彼が顔を上げると、少し驚いたような表情を浮かべる。「珍しいお客さんだね。俺に何か頼み事でもあるのかい?」

「はい、実は新しい農具を作りたいんです。土を掘りやすくする形とか、持ち手の角度とか、いろいろ工夫すれば今よりずっと作業が楽になると思うんです。」

 青年は少し困った顔をする。「確かに、今ある農具は大昔からの作りで、改良はほとんどしてこなかった。けど、そういう新しい試みに使える鉄が、今はあまりなくてな……。魔力枯渇のせいか、鉄鉱石すらいいものが手に入らないんだ。」

「なるほど。それでも、できる範囲で試作してみたいんです。僕が知っている設計図というか、イメージがあるので、何とか再現できませんか?」

 一樹は紙と炭筆を借りて、即席でスコップや鍬の形状図を描いてみせる。ポイントは、角度を工夫して土をすくいやすくし、柄の長さを人間の体格に合わせて調整すること。さらに先端を鋭利にしすぎないことで、無理に力を入れなくても土中に入りやすくなる。青年鍛冶屋は真剣な表情で図を見つめ、何度か眉をひそめながらも「やってみよう」という言葉をくれた。

 そうやって一つずつ準備を進めていく中、実験用の堆肥づくりは少しずつ形になり始めた。落ち葉やわずかな家畜の糞、食べ残しの野菜くずなどを集め、一樹の指示に従って適度に水を加えたりかき混ぜたりする。さらに、一樹が「土のpHを確認してほしい」と言うと、シルヴィアが魔力を用いて土壌の状態を可視化する簡易的な呪文を唱えてくれた。

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