第1話 無力の目覚め
ローランはゆっくりと意識を取り戻し、目を開けた瞬間、あまりの静けさに戸惑った。目の前には白い天井が広がり、耳を澄ませば遠くで聞こえる足音や医療機器の僅かな雑音が響いている。彼は自分の身体を動かそうと試みたが、指一本動かすことができない。恐怖が彼の心を覆い尽くし、息が詰まる感覚に襲われた。
「大丈夫ですか、ローランさん？ ご自分のお名前は覚えていますか？」と穏やかな声が聞こえた。声の主は白衣を着た中年の男性医師で、彼のベッドの横に立っていた。医師の隣には同じく白衣を着た若い女性看護師がおり、ローランの顔色を伺うように見つめている。
「はい、ローラン・デュマです。でも、ここはどこですか？ 何が起こったんですか？」ローランの声はかすかで、言葉を紡ぐのも一苦労だった。
「ここはセント・ルイス病院です。あなたは交通事故に遭い、意識不明の重体で運ばれてきました。現在、意識は回復していますが、全身不随の状態です。これを意識のある昏睡と呼びます」と医師は静かに説明した。
ローランはその言葉を聞き、頭の中で何度も繰り返した。全身不随、意識のある昏睡。彼の人生が一瞬にして変わってしまったことを理解しようともがいた。