赤い封筒 – 第12話

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 部屋の薄暗い照明が揺らめく中、アキラは刃物をかざす男と向き合っていた。先ほどまで「もしやミツルか」と恐れていたが、その姿形は確かに似ている部分こそあれ、どこか違和感を覚える。鼻筋のラインや耳の形、さらには声の微妙なニュアンスまでもが、大学時代のミツルとは微妙に異なっていた。

「おまえ……本当にミツルなのか?」

 アキラが動揺を抑えきれないまま問いかけると、男はくぐもった声で笑いを漏らした。先ほどまでの不気味な沈黙とは打って変わり、どこか余裕すら感じさせる笑い方だ。マスクをずらした彼の顔には、明確にアキラの記憶にはない面影が浮かんでいる。まるで似せようとして失敗したような、あるいは最初から別人として成立しているような、そんな印象を受けた。

「ミツル、ミツルと騒ぎすぎだな。あんたたちは本当に何もわかってない。ミツルはもう死んでるって、どうして気づかない?」

 男はその一言でアキラを凍りつかせる。ミツルが生きている可能性に振り回されていた自分とシンイチ。だが、その推測が逆手に取られていたのだと悟る。もしかすると、赤い封筒の詩はすべてこの男が偽装したものだったのか? しかし、それらは確かにミツルが書いていた未発表の詩と合致していたはず――それをどうやって手に入れたのか。

「じゃあ、おまえは誰なんだ。なぜミツルの詩を……」

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