赤い封筒 – 第10話

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 午前中、アキラが警察へ提出する資料を整理していた最中、編集部に届いた宅配便の中に、ひときわ異彩を放つ赤い封筒が混ざっていた。封筒の表には大きく「アキラへ」とだけ記されており、まるで嘲笑うように封が固く閉じられている。ユキノがそれを見つけ、血の気が引いた顔でアキラに差し出した。

「先生……これ、明らかに今までの封筒よりも嫌な空気がする。開けないほうが……」

「いや、見るしかない。どのみち内容を確認しないと始まらない。」

 アキラは息を詰めながら封を切る。中には不気味なイラストが描かれた用紙が一枚入っていた。絵は稚拙な線画ながら、何かの殺人現場を模したように見える。横たわった人影からは黒い液体が流れ、背景には明らかに“アキラ”という文字らしきものが滲むように記されている。それだけでも十分気味が悪いが、用紙の裏に書かれた詩がさらに神経を逆撫でする。

 ――夜に沈みゆく 言葉の墓標 

 ――その名を呼んでも応える声はなし 

 ――おまえの物語を この手で終わらせよう 

 いつもの詩に見られた抽象的な表現を超え、はっきりと“おまえ”という直接的な呼びかけが書き込まれている。アキラは手の震えを抑えきれないまま、紙を机に置いた。

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