夜の記憶 – 第5章

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エリカと田代は、赤い印が示す月影の森の場所に向かう準備を進めていた。翌朝、エリカの自宅に田代が訪れると、彼女はすでにバッグに懐中電灯やノート、簡単な防犯道具を詰め込んでいた。

「準備はいいみたいだな。」田代が少し緊張した表情で声をかける。

「ええ、大丈夫です。でも、本当に何があるかわからないから、慎重に進めましょう。」エリカは気を引き締めた声で応じた。

二人は車で月影の森に向かった。朝方の霧が立ち込める森の入口に到着すると、エリカは不安と期待が入り混じった表情を浮かべながら木々の奥を見つめた。

「行きましょう。もう引き返せません。」そう言い残し、エリカは田代と共に森の奥へと足を踏み入れた。

森の中は静まり返っており、鳥のさえずりもほとんど聞こえない。湿った空気が肌にまとわりつき、足元には落ち葉や苔が広がっている。二人は地図を確認しながら進んでいった。

「赤い印がついていたのはこの辺りだと思うけど……」田代が地図を見ながら呟く。

「確かに、この先に何かありそう。」エリカは慎重に前を見据えた。

やがて、木々の間に石碑のようなものが見えた。苔に覆われたその石には、何か文字のようなものが刻まれているが、風化が進み、判別が難しい。

「これが……伝承にあった石碑?」エリカは石に近づき、懐中電灯で照らした。文字をよく見ると、古代の象形文字のような模様が浮かび上がった。

「この模様、どこかで見たような……」エリカは言葉を詰まらせた。夢で見た祠の壁に刻まれていた模様と一致している気がしたからだ。

「これを見てくれ。」田代が石碑の裏側を指差した。そこには、石碑の土台部分が一部掘り起こされたような跡があった。

「誰かがここを掘り返したんだろうか?かなり古い跡だけど。」田代がその跡を慎重に調べ始める。

「もしかしたら、ここに何かが埋められていたのかも……」エリカは背筋に寒気を感じながら呟いた。

田代が土を少し掘り返すと、中から古びたナイフのようなものが出てきた。その刃にはかすかに赤黒い汚れがこびりついている。

「これ……血痕?」エリカが驚いた声を上げる。

「可能性はあるな。後で詳しく調べる必要がある。」田代は慎重にナイフを布で包んだ。

「ここには何か重大な証拠が隠されている……それが失踪事件とどう関わっているのか、もっと掘り下げる必要がありますね。」エリカは決意を固めた表情を浮かべた。

森を後にした二人は、警察署に戻り、ナイフを鑑識に回した。田代の上司である警察署長が対応に現れた。

「これが事件に関係している可能性があると?」署長はナイフをじっと見つめた。

「ええ、10年前の失踪事件と関連があるかもしれません。」田代が冷静に答える。

「わかった。鑑識で確認させよう。」署長はそう言ってナイフを預かった。

その後、田代とエリカはカフェに入り、次の行動について話し合った。

「真壁さんに直接聞きに行くべきです。」エリカはコーヒーカップを手にしながら言った。「彼が開発計画を進めていたのに、なぜ突然中止になったのか。その背景を知る必要があります。」

「だが、直接会うのは危険だ。彼は地元で影響力を持つ男だし、何か裏があるとすれば警戒しているだろう。」田代は慎重な姿勢を見せた。

「それでも行くしかありません。このままでは真実に近づけない。」エリカの目は強い意志を宿していた。

その夜、エリカは自宅で資料を整理しながら、再びペンダントを取り出した。亜沙子の写真が微笑むそのペンダントは、まるで何かを訴えかけているようだった。

「きっと、真相を知ってほしいと思っている……」エリカはそう呟き、ペンダントをそっと握りしめた。

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