朝方まで原稿と格闘した翌日、アキラはわずかな仮眠をとった後、出版社のオフィスへと足を運んだ。背中にはいつもの黒いバッグが下げられている。バッグの中には、昨夜も気になって仕方がなかった“赤い封筒”が入っていた。毎月届く、その不可解な詩。いつまでも放置しておくには、あまりに胸をざわつかせる内容だった。
オフィスのエントランスを抜けると、編集者であるユキノがコーヒーを片手に待ち受けていた。ショートボブの髪をすっきりまとめた姿はいつも通りだが、アキラの顔を見た瞬間、彼女は気遣うように声をかける。
「アキラ先生、昨日は遅くまで執筆だったんですよね? 顔色がよくないですよ。」
「大丈夫。いつものことだから。……でも、少し気になることがあってね。」
アキラは言いながらバッグを下ろし、中から赤い封筒を取り出す。ユキノはそれを見て怪訝そうな表情になる。
「ああ、また届いたんですか。それ、やっぱり読まれました?」
「読んだ。今回の詩にも、意味不明な単語がいろいろ並んでいた。でも、その中に気になるキーワードがあって……」