赤い封筒 – 第9話

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 翌朝、アキラは一睡もできないまま、シンイチの調査事務所に足を運んだ。机の上に置かれた文集のコピーと、これまでに届いた赤い封筒の詩の束を見比べながら、彼は深いため息を漏らす。大学時代にミツルが書き残していた未発表の詩の断片と、最近送られてきた詩があまりにも酷似していた。いや、単に似ているというレベルではない。行の順番や使われている言葉の組み合わせが完全に一致する箇所が複数あるのだ。

「……これはもう、偶然の一致なんてレベルじゃないな。本当にミツルが書いた詩そのものだ。」

 アキラは声を低くして言う。文章表現には作り手特有の癖があり、それはプロの作家であるアキラの目から見ても明らかだった。ミツルが未発表の詩として文集に載せ、さらに追記で書いたメモや断章――それらがそっくりそのまま、赤い封筒の詩として姿を変えている。普通に考えれば、ミツル本人か、彼の詩を入手した誰かが意図的に利用しているとしか思えない。

「確定的だな。これで赤い封筒の送り主がミツルとなんらかの関係を持つのはほぼ間違いない。ただ、その“ミツル本人”が生きているのか、それとも誰かが詩をコピーしているのか……。」

 シンイチもまた、険しい表情でプリントを繰りながらうなずく。彼の机の上には防犯カメラの静止画像がいくつも並んでいる。郵便局の投函ポスト付近を夜間に撮影したものや、周辺道路を映す民間の防犯カメラ映像を入手したのだ。人影はぼんやりとしか映っていないが、先日映り込んだ不審人物と同じような動きが何度も捉えられている。

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