ニューロネットの夜明け – 最終章:夜明け|後編

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埃の舞う倉庫アジトを後にしてから数日後、エリカは街の片隅にある小さなアパートの一室でミアと共に新しい生活を始めていた。インフォリベレーションのメンバーとはあえて距離を置き、しばらくは目立った行動はしないつもりだ。過激な作戦をやり遂げた彼らも各々の道へ散っていき、組織としての体裁を保つかどうかは不明だった。サイモンは「大きな流れをつくった以上、いつかまた動き出す」と不敵に笑っていたが、今は一旦落ち着くために互いを解放するように手を振った。

エリカは空っぽになったような心境を抱えながらも、アパートの簡素な部屋の掃除を続けている。腰を伸ばすと、窓からは薄い光が差し込み、昼下がりの暖かさが僅かに感じられた。壁際にはミアが持ち込んだツールやディスプレイ、配線類が積まれ、それらが二人のこれまでの戦いを思い起こさせる。

「ネットワーク環境は整ったよ。これで仕事も問題なくできるはず」

ミアが小さく伸びをしながら、アパートの壁に取り付けた小型ルーターを指し示す。彼女はエンジニアとしての腕を活かし、最低限のセキュリティを確保しつつも、一般的なオンラインサービスにもアクセスできる環境を構築していた。

エリカはほっとしたように笑みを返す。

「ありがとう。ここは少なくとも、あの倉庫ほど目立たないし、安全そうだね」

「うん。しばらくは素性を隠してひっそりやるしかないと思う。大騒ぎになりすぎて、どこに目が潜んでるかわからないし」

それもそうだ、とエリカは心の中で同意する。プロジェクト・シナプスの崩壊により、政府や大企業の共謀が一斉に暴露された。この事件で最も打撃を受けたのは研究所を管轄していた当局とヴァル・セキュリティの幹部連中だが、その余波は情報をリークしたインフォリベレーションや、直接行動を起こしたエリカたちにも少なからず及ぶ可能性がある。世間の目が騒がしい今、下手に表に出るのは危険だろう。

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