大空の船 – 第3章 後編

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空への初飛行を無事に終えた翌朝、アレンは町外れの離陸場に停泊させているアルバトロスの甲板で、まだ昇りきらない朝日に目を細めていた。前日の試験飛行で大きなトラブルは起きなかったものの、船の動力や操縦についてはまだ改良の余地がある。浮力バランスの調整方法や燃料の消費計画など、解決すべき課題を思い浮かべるうちに、「やはり自分ひとりでは限界がある」と痛感する。仲間とともに動き始めたとはいえ、試験飛行を手伝ってくれていた人々はそれぞれ自分の仕事を抱え、いつもつきっきりで協力してもらえるわけではない。これから本格的に遠くの空へ航行するなら、専属のクルーが必要だ。

「そろそろ正式にクルーを募集すべきだよね。操縦や機関の管理、航路の選定……やるべきことは山ほどあるんだし」

そう声をかけたのはリタだ。アレンより少し年下だが、機械いじりの才能に恵まれ、アルバトロスのエンジン開発でも大いに力を発揮してくれた。彼女は作業服の袖をまくりながら、甲板の隅で配管類を点検している。

アレンは甲板を見渡しつつ、「ああ。みんな昨日は手伝ってくれたけど、次はいつ呼べるかわからないからね」と深く頷いた。少なくとも操縦士、整備士、そして航路を把握する者の三人は欲しいところだ。それに加えて、いずれは物資管理や船の警護、雑多な雑務をこなす人材も必要になるかもしれない。

そんな話をしていると、ちょうど離陸場の柵をくぐって一人の青年が姿を見せた。見るからに体格がよく、背筋を伸ばして歩く様子は、かつて軍隊か何かでならした雰囲気がある。アレンとリタが顔を見合わせていると、青年はまっすぐこちらへ近づいてきて、帽子を取るように軽く胸の辺りで手をやり、挨拶をした。

「お前がアレンか? 噂を聞いた。空を飛ぶ船を本格的に運用したいらしいな」