大空の船 – 第4章 前編

アレンはぎりぎりと奥歯を噛み締め、「ラウル、全力で高度を下げてくれ! 少しでも地形の多い場所へ向かう!」と声を張り上げた。危険は承知だが、逃げ場はそこしかない。

アルバトロスは急降下を始め、風圧が甲板上の乗組員を苦しめる。狙いを定めにくい急降下と乱気流のおかげか、相手の攻撃は次第に散漫になってきた。何とか追撃を振り切れそうに思えるが、船体が悲鳴を上げるように軋んでいることもはっきり伝わってくる。

「もう少し、もう少し耐えてくれ……!」

アレンは自分にも言い聞かせるように呟く。雲の下に広がる空間のどこかに、浮遊島や安全な地帯があると信じて。何度も爆発音が聞こえ、弾け飛ぶ破片が視界を乱すが、振り返らずに前方へ集中する。そうするうちに、ガクンと揺れが収まり、敵のエンジン音が遠ざかったように感じた。

激闘の余韻の中、空気が変わったことに気づいたリタが甲板に顔を出し、「やった、もう追撃してこないみたい……!」と声を上ずらせる。アレンたちは船の被害状況を確認しながらも、まだ気を抜けずに周囲を警戒する。

「どうにか雲の下に潜り込んで逃げ切れたかもしれないが、船がボロボロだ。どこか浮遊島に着陸して修理しないと命取りになる」

ラウルは苦い面持ちでそう言い放ち、ライナスも「急いで安全な場所を探そう」とコンパスを覗き込む。

甲板に散乱する破片の間にうずくまるリタは青ざめた表情を浮かべ、「もしあれが空賊の一団なら、いつまた襲われるかわからない。こんな武装もない船じゃ太刀打ちできない」と気を落とす。それを聞いたアレンは、胸の奥に強い悔しさを覚える。せっかく空へ飛び立つ夢がかなったのに、いきなり突きつけられた残酷な現実。空賊という存在を、他人事のように考えていた自分を責めるような思いだった。

もっと安全に飛べる方法はないのか。あるいは、やはり何らかの防御手段を用意しなければこの先の航海は成り立たないのか。そんな考えがめぐる中、アレンは苦い思いを飲み込みながら、まずは「仲間を守るため、船を修理する場所を探す」ことに集中する。空は美しくも厳しい。ここから先は、夢だけでは乗り切れない現実が待っているのだと、身をもって思い知らされた。

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第4章:前編|後編

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