大空の船 – 第4章 前編

アレンが必死に祈るように叫ぶ。その瞬間、アルバトロスは厚い雲の層に突っ込み、一気に視界が真っ白に染まる。湿った霧のような冷たさが甲板を覆い、数メートル先もまともに見えなくなる。これで相手も目標を定めにくくなるはずだが、同時にこちらも進行方向を見失う危険があった。

「ラウル、計器は生きてるか?」

「かろうじて。ただし、この乱気流の揺れが強い。船体が耐えきれるか微妙だな」

アルバトロスはもともと長時間の高高度航行を想定していたが、こうした急激な乱気流に耐える仕様ではない。船体各所から軋む音が聞こえ、ラウルが舵を必死に握りしめる。後方ではライナスが方位計を睨みつつ、「少しずつ西へ旋回すれば、雲が薄くなる場所があるかもしれない」と助言した。

しかし、その方向へ進むのは賭けだ。雲を出た瞬間に敵の飛行艇の待ち伏せを食らう可能性もあるからだ。アレンの脳裏にはさまざまなシミュレーションが過ぎるが、時間がない。船体のダメージも深刻で、長居はできない。

「了解。ライナスの判断を信じよう。ラウル、左舷へ舵を切って!」

乱流に翻弄されながらも、アルバトロスはどうにか姿勢を保ち、雲の外縁部を目指して舵を切る。相手の飛行艇の姿は霧の奥に隠れているのか、断続的に遠くからエンジン音らしきものが聞こえるが、まったく位置をつかめない。

「いっそ、このまま雲の下へ降り切ってしまう手もあるな」

ラウルが辛そうに操縦を続けながらぼそりと漏らすと、アレンは黙ってうなずく。雲海の下に降りれば地形の影なども利用できるが、もし浮遊島や断崖に衝突すれば最悪の結末を迎えるかもしれない。だが、他に選択肢はほとんど残されていなかった。

やがてアルバトロスは白い霧の壁をようやく抜け、灰色の空へ出る。その瞬間、船体が大きく揺さぶられ、警告音が鳴り響く。続けて後方から砲撃の光がちらつき、またしても弾が掠めてくる。敵は雲を一緒に抜けてきたのだ。

「くそ、しつこいな!」

ライナスが甲板に伏せながら叫ぶ。リタは船底のパネルを開け、「もうひび割れが深刻! 浮力制御装置が限界だよ、早く降りないと!」と涙声で報告する。

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