大空の船 – 第4章 前編

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第4章:前編|後編

高高度まで上昇するのは今回が初めてだった。アレンたちの飛行船アルバトロスは、町を出航してからまる半日をかけ、雲海のさらに上層を目指していた。クルーの面々は皆、新しい景色への期待に胸を膨らませつつも、未知の領域で起こりうる危険を予感している。まるで水面下に潜む暗い影を想起させる、そんな微かな不安が船内に漂っていた。

「視界は良好だけど、酸素が薄くなってきたわね」

機関室から顔を出したリタが、甲板にいるアレンに声をかける。彼女はエンジンだけでなく、船内の空気循環機構も管理しており、その重要性をひしひしと感じているようだった。

「うん。無理な高度上昇は禁物だ。乗組員の体が慣れないうちに、高度を上げすぎるのは危険だからね」

アレンはコンパスと高度計の読みを確認しながら答える。慣れない高所の気圧変化に対応できるよう、普段より慎重に操船しているのが彼の表情からも見て取れた。

一方、操舵席に陣取るラウルは、いつになく真剣な面持ちで舵を握っている。視線は前方だけでなく、左右や後方にも頻繁に向けられていた。

「ラウル、そんなに周囲が気になるのか?」

アレンが問いかけると、ラウルは肩越しにちらりと振り返る。

「なんとなく嫌な予感がするんだ。俺は軍の操縦士だった頃、似た感覚を何度か味わったことがある。視界が開けていても、雲の中には何が潜んでいるかわからないからな」

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