和菓子の灯がともるとき – 12月29日 後編

二人の温度差があらわになった瞬間、気まずい沈黙が訪れた。玄関先で立ち尽くしたまま、由香は亮の顔を正視できずに視線をそらし、亮もまた不満げに口を結んでいる。「悪かったな、忙しいところに」とぽつりと呟くと、亮は頭を軽くかきながら「俺も熱くなりすぎた。ごめん」と謝ったが、なんとなくもやもやとした空気はそのまま残ったままだ。

亮が帰った後、由香は買ってきたものをキッチンに運び込みながら、母の手伝いをする。だが、さっきのやりとりが頭から離れず、せっかくの買い物の道中で感じたちょっとした希望や温かさも、どこか後味の悪いものに変わってしまっていた。老婦人が「夏目堂」を心待ちにしてくれていること、商店街組合の担当者が「本当は続けたいのに」という本音を漏らしていたこと、そして亮の情熱が空回りしてしまうかもしれない不安――すべてが頭の中を渦巻き、素直に一歩踏み出せない。なぜなら、自分に何ができるのか、どこまでやれるのかがまだ見えないからだ。

夕暮れどき、台所の窓から外を見ると、街の空がゆっくりと藍色に変わっていく。風が冷たく、町全体が薄暗く沈んでいくように見えた。由香は胸のうちで、父の店の再開や、商店街の衰退に立ち向かおうとする亮の思いに、どう向き合えばいいのかを問い続けていた。なかなか答えは出ないまま、家の中に走る静かな時間に包まれながら、次の日を迎えようとしていた。

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