ニューロネットの夜明け – 第5章:企業潜入と対立|後編

助手席に待機していた男が急発進し、路地を疾走していく。背後ではビルの警備が乱立し、ドローンが上空からサーチライトで追いかけようとしていた。だが、数ブロック先まで逃げ切れば、市街地の混雑の中に紛れ込める。

車の中でエリカは荒い息をつきながら、ハッキング用の端末を確認する。レオナルドのオフィスから得た情報は、ほとんど皆無に等しい。せいぜい、彼が口にした“止めようにも止められない”という計画の規模が本物だという事実を再確認しただけだ。情報公開を迫ったものの、今はまだ無理だと言われ、追い返されてしまった形だ。

「やっぱり、そう簡単にはいかないか……」

ぼそりと呟くエリカに、運転席の男が短く言葉を投げる。

「強行突破にしてはよくやったさ。生きて戻れただけでも大したもんだ。あとはサイモンのところへ急ぐか?」

「ええ、そうね。報告しないと……」

エリカはレオナルドの残した言葉を頭の中で繰り返す。今はまだ早い——つまり、レオナルド自身が計画にいつか楔を打ち込む準備をしているのか、それとも単なる先延ばしなのか。確かなのは、彼が完全に企業や政府の手先として割り切っているわけではないという点だ。

しかし、結果的には思うような成果を得られず、かろうじて逃げ帰るしかなかった。レオナルドがまだ敵ではないと信じたい気持ちと、この強大な計画を前にして自分の力が及ばない無力感とが、エリカの胸中で渦を巻いている。車窓の外を流れ去る街の景色を見つめながら、エリカは拳を握りしめたまま、次にどう動くべきかを懸命に考え続けていた。

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第5章:前編|後編

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