第1章:前編|後編 第2章:前編|後編 第3章:前編|後編 第4章:前編|後編
第5章:前編|後編 第6章:前編|後編
政府研究所のメインホールは、いつになく人の出入りが多かった。普段は厳重な制限のもと少数の研究員しか立ち入れないはずが、今日に限っては制服姿の警備員や白衣をまとった技術者、さらにまったく研究とは無縁に見える男たちが通路を行き来している。彼らは皆、ビアンカの指示のもと、研究施設内の移動や確認作業に追われていた。
ガラス張りの大きな観察ルームでは、既に複数の被験者が実験用ベッドに横たわり、頭部に装着されたヘッドギアを通じて生体情報をモニタリングされている。そこには自発的に参加したという志願者らしき若者もいれば、身元を隠すように沈黙したまま横たわる中年の男もいて、その表情や境遇は様々だ。ビアンカはガラス越しにその様子を見つめながら、端末に映し出されるデータを確認する。
「次の段階で、あと十名程度の被験者を確保しておきたいわ。多少強引でも構わない。研究所外の協力機関に連絡し、対象者を優先的に連れてくるよう伝えて」
側に立つ助手の研究員が目を伏せながら応じる。
「わかりました。すでに志願者リストはある程度埋まりつつありますが、補欠枠として別ルートからの被験者も用意しておきます」
「ええ、頼むわ。完全な意識共有を成し遂げるためには、より多様な被験者が必要になる。今回の大規模実験が成功すれば、世界規模での導入が現実味を帯びるのだから」