赤い封筒 – 第2話

「一応これからの動きは、俺にも逐一教えてくれ。何かわかったら電話するから。」

「ああ。俺も少し、この詩についてさらに調べてみるよ。あの担当編集者のユキノにも協力してもらうつもりだ。」

 アキラは言い終えると、封筒を丁寧にバッグへ戻し、部屋を後にした。廊下に出てみると、雑居ビル独特の生活感ある匂いが鼻に沁みる。どこかの事務所のフロアから人の声が聞こえ、階下ではコピー機が稼働する音がしている。そんな何気ない日常の背景に、自分が今、どこか危うい境界を踏み越えようとしている――そんな感覚が拭えなかった。

 このままではいずれ危険を呼び寄せかねない。けれど、作家として踏み込んでみる価値がある、という強い確信もある。割り切れない思いを胸に抱えながら、アキラはビルの出口へと急ぎ足で向かった。無数の人と車が行き交う午後の大通りに出れば、すべてがごく普通の平日を装っているように見える。それでも、彼の視界にはあの赤い封筒と、そこに刻まれた不穏な詩の残像がちらついていた。すべての点がきちんと線で結ばれたとき、どんな真相が浮かび上がるのか――その答えはまだ漠然としている。少なくとも、情報収集を進め、創作という形で自分の視点を定めるしかない。追えば追うほど、未知の危険が待っているかもしれないとわかっていても、アキラはその道を進まずにはいられなかった。

プロローグ 第1話

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