赤い封筒 – 第11話

「おまえはミツル……なのか?」

 問いかけに対して、男はかすかに首を傾げ、次の瞬間にはアキラの方へ一歩近づいた。その動作に驚き、アキラは後ずさる。手元に武器はない。逃げ場もない。ほんの数メートルの距離が永遠にも感じられるほど緊張が走る。

 男はゆっくりとマスクを外すかに見えた。しかし、その顔は暗がりでうまく見えない。部屋の照明の具合を計算しているかのように、男は影の中に立ち止まった。かすかな光の下、頬のラインがわずかにミツルを思わせる気がする。だが、はっきりした素顔は確認できない。アキラの口から渇いた息が漏れる。 

「……ミツル。頼む、俺に話をさせてくれ。おまえがこうして人を傷つけているなら、もうやめてくれ……! 俺は、おまえを見捨ててしまったことを後悔してるんだ!」

 半ば感情に任せてまくし立てると、男は呆れたように小さく笑った。その笑いすら正体を伺わせない不気味さがある。

「ふふ……おまえは何もわかっていない。俺がどれだけの嘲笑と憎悪を喰らってきたか。いまさら取り繕って何になる?」

 どこか詩の一節のようにも聞こえる言葉遣い。アキラはその声に確かにミツルの影を感じた。大学時代、彼がノートに書き付けていた文章を、まるで朗読するかのような響きが宿っている。だが、まだ確信は持てない。身体中に薄ら寒い恐怖が張り付き、膝が震えそうになる。

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