赤い封筒 – 第12話

 男の目には狂気に似た光が宿っている。アキラは言い返そうとするが、刃先がこちらを向くたびに喉が引きつって声が出ない。文集に記されたミツルの絶望と復讐の言葉――確かにあれを読めば、過激な結末を想像しないでもなかったが、実際にこんな形で人を殺めることをミツルが望んでいたとは思えない。

「俺はあいつから託されたんだよ。世間に認められなかった悲痛な詩を、本当の形で完成させる義務をな。そのために邪魔な連中は掃除した。それだけだ。」

「被害者を殺して、“詩”で表現するだなんて……それはただの狂気だ。あんたが自分を正当化するために、ミツルを利用しているだけじゃないのか!」

「黙れっ……!」

 男の手が一瞬ぶれる。そのままアキラに向かって突きかかろうとしたそのとき、玄関のほうで激しい音が響く。ドアが勢いよく開き、飛び込んできたのはシンイチだ。彼の背後には警察の刑事らしき人物も数名いる。どうやら以前からこのマンション近辺で待機していたらしい。

「動くな! 武器を捨てろ!」

 シンイチが鋭い声を上げる。男は刃物を持った手をアキラの方へ伸ばしかけていたが、警察の姿を認めて一瞬尻込みする。アキラはその隙を突き、男との距離を取るように身を翻す。すると、男は苛立ちを露わに再び刃を振りかざすが、シンイチの仲間が床へタックルするようにして取り押さえにかかる。

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