やがて、警官らが男を連行して部屋を出る。ふとした拍子に、男の潤んだ瞳とアキラの視線が交錯する。そこに浮かぶのは嫉妬か、憎悪か、あるいは悲哀か――一瞬のことで判然としないまま、扉が閉まって足音が遠ざかっていく。
「これで終わったのか……」
頭を抱えながらつぶやくアキラに、シンイチはそっと手を伸ばす。
「まだ警察で事情聴取があるだろうし、あいつが言ったことの裏を取るのにも時間がかかるだろう。だが、とりあえずおまえの身を脅かす脅威は排除できた。」
「そうだな……ありがとう、シンイチ。本当に助けられたよ。」
アキラは体の力を抜き、深く長い息を吐く。犯人は逮捕された。赤い封筒を巡る連続事件の正体は、“死んだはずのミツル”ではなく、彼の詩を熱狂的に崇拝し、歪んだ欲望を駆り立てて犯行を繰り返した男。アキラがかつて感じていた罪悪感や後悔は、形を変えてさらなる悲劇を呼んだとも言えるのかもしれない。
息苦しいほどの沈黙が部屋に降りる。壊れた家具の破片や散乱した書類の上に、外の街灯が微妙な光の筋を落としている。静まり返った自室を眺めながら、アキラはかすかに残るミツルの面影を思う。
あの男が語ったことがすべて真実なのか、それとも自己都合の妄想を織り交ぜているのかはわからない。しかし、ミツル自身はもうこの世にいない――その事実だけは受け入れるしかない。そして、この事件が終わったあとに残されるものは何なのか。アキラはふと、遠い過去を思い返しながら、胸の奥で複雑な思いを噛みしめていた。




















