ニューロネットの夜明け – 第5章:企業潜入と対立|後編

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第5章:前編|後編

ドアのロックを解除し、エリカがレオナルドのオフィスへ滑り込んだとき、背後の廊下では警備員の怒号と電子ロック解除を試みる音が入り混じっていた。床には分厚いカーペットが敷かれ、重厚なデスクや大きなモニターが整然と並んでいる。まるで別世界のように静かな空気が張り詰めていて、エリカはひとまず短い安堵の息をついた。

すると、部屋の奥の方で人の気配が動く。すぐに脳内チップで警戒態勢をとろうとしたエリカの目に、立ち上がる人影が映る。その男はレオナルド——かつて同じハッカーコミュニティで共にコードを弄り、理想を語り合った旧友とも言える存在だった。

「やはり、あなただったのね」

レオナルドが低い声でそう呟き、静かにエリカへと近づく。エリカは一瞬、彼が警備を呼ぶのではと身構えたが、レオナルドの表情には戸惑いと苦悩がにじんでいた。警戒だけでなく、懐かしささえ混じっているようにも見える。

「レオナルド……久しぶり。幹部さんになったって噂は聞いてたけど、こんな形で再会するとはね」

エリカの言葉には少し皮肉がこもっていたが、彼女自身も今の状況に複雑な感情を抱いていた。レオナルドを完全に敵だと決めつけられない自分がいる一方で、彼がヴァル・セキュリティと政府の大きな計画に深く関わっていることは確信している。

「……すぐに警備を呼んだ方がいいんだろうが、正直、迷っているよ。昔の仲間がこんなふうに潜り込んでくるなんて、想像もしなかった」

レオナルドは苦笑混じりに言うが、その瞳には明らかな動揺がある。彼は企業の重責を負う身として、自分の立場とエリカへの思いの板挟みにあえいでいるようだった。

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