第1章: 前編|後編 第2章: 前編|後編 第3章: 前編|後編
夜明け前、ギルドの資料室は蝋燭の灯だけが揺れていた。
私は机いっぱいに広げた帳簿と魔紋炉の転送ログを照合し、最後の行へ大きく二重線を引く。
「一致――これで確定だ」
数字が示すのは、王都本部〈財務局第四課〉から遺跡管理局へ流れた多額の“闇予算”。帳簿の枝番とログの識別符号GD-41がぴたり重なる。
ペンを置く音を聞きつけ、クラリス支部長が静かに扉を開けた。月灯りの差す髪が銀に輝く。
「徹夜での作業、お疲れさま。証拠は掴めたかしら?」
「はい。ただ、これをそのまま王都へ送れば──」
「証拠隠滅を図られる危険が高いわね」
クラリスは頷き、革封筒に封蝋を落とした。
「ゆえに直接、私とあなたで提出しに行く。ティリアたちにも護衛を頼むわ」
「……窓口係から一気に護送任務ですか」
「受付は戦場だもの。書類を守るのも仕事よ」
支部長の微笑みは、どこか楽しんでいるようだった。