第1章: 前編|後編 第2章: 前編|後編 第3章: 前編|後編 第4章: 前編|後編
第5章: 前編|後編 第6章: 前編|後編 第7章: 前編|後編
春の陽が眩しい――あの王都決戦から三週間。
桜色の花びらが石畳に舞い、トリス支部の掲示板は朝から冒険者たちの笑い声でいっぱいだった。
「……でさぁ、新任の王都監査補佐官が“うちの受付さん”だったって話、もう聞いた?」
「マジ!? あの優しいお兄さんが!?」
酒場で飛び交う噂を背中で聞きながら、私はカウンターB番に立っていた。背広の袖口にはあの日もらった赤い腕章――いまは布の裏に畳んで縫い付けてあるだけだ。王都辞令は半年後。今日の私はただの窓口係──それが心地よい。
「ユウト、新規依頼の登録完了したわ」
猫耳の先輩受付セルマが帳票束を渡してくる。
「ありがとう。……おや? “日替わり定食隊”宛の封書?」
封筒には金色の封蝋と、王国監査院の紋章。そして差出人欄には見慣れた名――〈臨時監査補佐官 マリエル・クロフォード〉。
開封すると、中には監査院公式の招聘状と、さらには王都大劇場の公演チケットまで同封されていた。
《功労者表彰式へのご出席をお願い申し上げます。余興は“数字劇・正しい帳簿の作り方”。気楽にどうぞ》
余計に気楽になれないね、と苦笑しながら私は封筒を制服の胸ポケットへ。