夜、事務室で一日の売上帳を締めていると、クラリス支部長が静かに入ってきた。
「ユウト、王都からの追加依頼よ。監査院が“ギルド支部向け会計講習”を全国で開きたいそうだわ」
「講師は僕?」
「文字通り。受ける?」
私はペンを置き、窓から夜空の星を見上げた。都会の喧騒より、ここで聞こえる冒険者の笑い声のほうがずっと好きだ。
「……定休日にリモート開催なら」
クラリスはくすりと笑う。「了解。では“有給講師手当”を計上しておくわね」
帳簿を閉じ、日報欄に短く記した。
《本日の窓口:クレーム0、笑顔112、未来への仕訳1件》
深夜。ギルド外灯の光を消しながら、私は胸ポケットの招聘状をそっと撫でた。数字との戦いは終わっても、数字で誰かを助ける仕事は終わらない。
異世界冒険者ギルドの日常――明日もまた、新しい決算が待っている。
第1章: 前編|後編 第2章: 前編|後編 第3章: 前編|後編 第4章: 前編|後編
第5章: 前編|後編 第6章: 前編|後編 第7章: 前編|後編


















