異世界冒険者ギルドの日常 – 第7章:前編

 夜、事務室で一日の売上帳を締めていると、クラリス支部長が静かに入ってきた。

 「ユウト、王都からの追加依頼よ。監査院が“ギルド支部向け会計講習”を全国で開きたいそうだわ」

 「講師は僕?」

 「文字通り。受ける?」

 私はペンを置き、窓から夜空の星を見上げた。都会の喧騒より、ここで聞こえる冒険者の笑い声のほうがずっと好きだ。

 「……定休日にリモート開催なら」

 クラリスはくすりと笑う。「了解。では“有給講師手当”を計上しておくわね」

 帳簿を閉じ、日報欄に短く記した。

 《本日の窓口:クレーム0、笑顔112、未来への仕訳1件》

 深夜。ギルド外灯の光を消しながら、私は胸ポケットの招聘状をそっと撫でた。数字との戦いは終わっても、数字で誰かを助ける仕事は終わらない。

 異世界冒険者ギルドの日常――明日もまた、新しい決算が待っている。

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