ニューロネットの夜明け – 第5章:企業潜入と対立|前編

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第5章:前編|後編

ヴァル・セキュリティ本社ビルは、遠目に見るだけでも圧倒されるほど近未来的な意匠を誇っていた。ファサード全体は強化ガラスとメタルパネルで組まれ、玄関正面には企業のロゴが大きく輝いている。朝の陽射しを反射し、まるで周囲の建築を圧倒するかのような迫力がある。

エリカは通勤時間帯を狙ってビルへ向かった。偽造IDカードは、インフォリベレーションが用意してくれたものだ。カードには、ヴァル・セキュリティの関連子会社に所属する「外部コンサルタント」としての情報が記載されている。髪をタイトにまとめ上げ、ビジネススーツ姿に身を包んだエリカは、見た目だけならどこにでもいるエリート社員に見えなくもない。しかし、その胸の内は強い緊張で満たされていた。

本社のエントランスでは、多数の社員がゲートを通過していた。自動改札のように並んだゲートには、普通のカードリーダーに加えて小型スキャナーが据え付けられ、通過する人々の顔と脳波サインを同時にチェックしている。エリカは偽造IDをかざしつつ、自分の脳内チップに仕込んだジャミングツールを短時間だけ起動した。

「……大丈夫、大丈夫。今なら人が多くてあまり目立たないはず」

エリカは心の中でそう自分に言い聞かせる。ジャミングツールはほんの数秒だけ脳波スキャナーを誤作動させる設定になっており、それに乗じて本物の認証コードを偽装する仕組みだ。もしタイミングを誤れば、即座に異常が検出される。

ゲートに足を踏み出した瞬間、エリカのIDカードに緑色のランプが灯り、バーがゆっくりと開く。周囲にいた社員たちは何も疑問を抱かない様子で通り過ぎる。エリカは安堵のため息をつく一方、ビル内部のセキュリティがこれで終わりではないことを十分承知していた。