第1章:前編|後編 第2章:前編|後編 第3章:前編|後編 第4章:前編|後編
第5章:前編|後編 第6章:前編|後編 第7章:前編|後編
研究所の地下区画を縦横に伸びる廊下を駆け抜けると、徐々に空気が重苦しく湿り気を帯びてくる。狭い通路の両脇には、被験者が収容されていたであろう部屋がいくつも並び、ガラス越しに見える実験器具やモニタリング装置が無機質な光を放っていた。エリカの脳裏には、ここでどれだけ多くの人たちが“意識共有”の実験台にされたのかという疑問と嫌悪が渦巻いている。足音を抑えながら先を急ぐうち、遠くのほうで警報のサイレンがかすかに鳴り響き、赤いランプの点滅が天井を染め始めた。
「時間がないわ。ビアンカがもう待ち構えているかもしれない」
エリカは息を整えながらサイモンとミアを振り返る。サイモンは拳銃のような小型武器を腰に装備していて、警戒を怠らない。ミアはタブレットを握りしめ、すぐにでもシステムを妨害できる準備をしている。背後では遠隔支援を行うインフォリベレーションのメンバーがセキュリティの撹乱を続けているが、いつまでもそれが続く保証はない。
薄暗い通路を曲がった先、重厚な扉の前で立ち止まると、そこには明らかに異様な気配があった。何かを待ち構えるように開け放たれた扉の向こうから、低い機械音とともに人の気配が漂ってくる。エリカは意を決してドアを押し開け、中へと足を踏み入れた。
広い実験室らしきスペースには様々な装置が並び、中央付近には大型のカプセルやメインフレームの端末につながるケーブルが入り乱れている。そこでエリカたちを待ち受けていたのは、白衣の上にメタリックな端末を装着したビアンカの姿だった。彼女は何かのヘッドセットらしきものをつけたまま、ゆっくりと振り返る。
「来たのね、エリカ。あなたたちがここにたどり着くのを予感していたわ」
ビアンカの声は落ち着いているが、どこか熱に浮かされたような響きを帯びている。かつての冷静な研究者とは違い、その瞳には狂信にも似た光が宿っていた。周囲の装置が小さく唸りを上げ、赤い警告ランプを照らし出すなか、ビアンカは足元に転がる複数の被験者用ヘッドギアを示すように手を伸ばす。