赤い封筒 – 第3話

 アキラの目はどこか覚悟を帯びた光を放っている。シンイチは無言で腕組みをし、ユキノは困惑気味に目を伏せる。作家としての衝動とリスクの狭間で、誰も一筋縄には答えを出せない。しかし、アキラにとって執筆は人生そのものに近い行為だ。迷ったときこそ筆を取り、物語として世界を組み立てていく――それが彼のやり方だった。

「わかった。ただし、あまり公にしすぎないようにしろ。書くにしても、犯人が読んだらマズいような具体的な手がかりは伏せておけ。いいな?」

「もちろん、そうする。下手をすればこっちが事件に巻き込まれるんだから。」

「せめて私もチェックしますね。出版に踏み切るにはリスクが大きすぎるので、当面は先生の頭の中の整理という位置づけで……。」

 意見を交わし合ううち、すっかり日が暮れ始めていた。窓の外をのぞくと街灯やビルの看板がちらちらと点灯を始め、行き交う人々が足早になっていく。いつの間にか店内の客もまばらになり、静けさが増していた。

 こうして三人は、さらなる独自調査を進めることで一致する。新たに届いた封筒の詩には、脅迫とも取れる表現が明確になってきた。警察が動かない以上、何らかの突破口を見つけるしかない。アキラには目を背けられない事情があるし、ユキノには作家を守り抜く責任と仕事上の興味がある。シンイチもまた、元刑事としての血が騒ぐのか、このまま傍観しているわけにはいかないと思っているようだ。

 コーヒーの冷めきったカップを脇に寄せ、三人は最後に打ち合わせの要点を互いに再確認する。新たな赤い封筒の詩を徹底的に分析すること。過去の事件資料と付き合わせ、被害者の共通項を探すこと。危ない行動には慎重になること――それだけが、この得体の知れない闇に対してできる限られた手段だった。彼らはそれぞれ心中に不安を抱えつつ、いつもの生活圏とは違う空気が迫り来るのを感じ始めている。もはや後戻りは難しいだろうと、三人とも密かに悟っていた。

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