それは蒸し暑い雨上がりの午後だった。アキラは編集部のミーティングルームでユキノと打ち合わせをしていた最中、受付のスタッフが慌ただしい足音を立てて駆け寄ってきた。少し息を切らせながら、スタッフは赤い封筒をアキラに手渡す。見るからにいつものあの封筒だ。アキラはその瞬間、嫌な胸騒ぎを覚える。先日シンイチから聞いた未解決事件との関連、詩に潜むメッセージ、そこに見え隠れしていた不気味さ――それらが一気に頭をよぎった。
ミーティングルームに戻ると、ユキノは落ち着いた口調で言う。
「また届いたんですね。封筒の色、変わらないみたいですけど……開けてみます?」
「……うん。正直、あまり気は進まないけど。」
アキラは表面を軽く撫で、封筒の封を切る。これまでも繰り返し同じ作業をしてきたはずなのに、手先に小さな震えが走る。引き抜いたカードはいつもより分厚い紙だ。それだけで妙に緊張を煽られる。文字は先月までと同じ淡いインクで書かれているが、今回はやや乱雑さを感じる筆跡だ。
「“最後の一人が沈黙するまで 逃れられぬ夜が降りる 君が灯す火が消えるとき 血の詩が広がるだろう”」