赤い封筒 – 第7話

 夕方になり、スマートフォンのニュースサイトを更新すると、今朝の殺人事件について続報が上がっていた。被害者の詳細はまだ伏せられているが、「現場付近に詩文が残されていた」という一文が追加されている。警察は関連を強く疑い、未解決事件の再調査を進めているようだ。しかし報道を見る限り、確固たる逮捕の動きは報じられていない。空回りしている気配さえ感じる。

 ミツルは本当に死んだのか、それとも復讐の鬼と化して生き続けているのか。もし死んでいるなら、今の犯人は誰なのか。アキラはその夜、再びパソコンの前に座るものの、画面に向かうと何も書けなくなる。頭の中にあるのは疑念と不安ばかりで、創作へ向かう意欲が見事に削ぎ落とされている。かといって、何もしないまま手をこまねいているのも苦痛でしかない。

(もしこれがミツルの仕業だとしたら、俺は奴と直接対峙するしかないのか?)

 自問してみても答えは出ない。電話を握りしめても、掛けるべき相手はシンイチかユキノしかいないが、彼らも事態を根底から解決できるほどの決め手を持っていない。さらに被害者が出た今、焦る気持ちは募るばかりだ。あの赤い封筒を送る者は、まるで鋭い刃を振りかざすように次々と行動を起こしているのに、こちら側はただ後手に回るだけ。

 アキラは夜の空気を吸いにベランダへ出る。街灯と月光が微妙に交じり合った空を見上げながら、胸の鼓動の速さを自覚していた。表向きの世界は変わらないが、その裏ではミツルの影が――あるいはミツルを名乗る誰かの影が――じわりと侵食している。次の朝が訪れるころには、どんな現実が待っているのだろう。そんな不安が小さな鈍痛となってアキラの背中を刺していた。

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